イスラエルのアステリア首相がソビエト連邦に電撃訪問し、安全保障や経済連携に関する共同宣言を発したことが、国際社会において波紋を呼んでいる。イスラエルの同盟国であり最大の支援者である米国は即座に「深刻な懸念」を表明し、ソビエト連邦の最大の同盟国である清華も困惑した様子を見せた。
アステリア首相はかねてよりイスラム原理主義と共産主義を同列の脅威として捉え、これらを強硬に排除する言動を見せていた。また、ソビエト連邦もイスラエルとの対立姿勢を明確にし、国交断絶も辞さない様子であった。事態の急展開の裏には何があったのだろうか。国際政治学者の隈本敦行氏に聞いた。
イスラエルはアメリカの中東政策に不満を抱えている
ーーソビエト連邦とイスラエルの共同宣言には多くの国が困惑の様子を見せています。背景には何があったのでしょうか。
「イスラエルが米国の中東政策に何らかの不満を抱えていることが最大の要因であると思います。イスラエルは現在、イスラム過激派の脅威に直面していますが、それに対する米国の対処が逆効果になってしまうことを恐れています。また、現在進展している米国とイランとの関係悪化に伴うリスクは直接的にはイスラエルが被ります。イランと一定の関係を築いているソビエト連邦が一種の保険となることを期待しているのでしょう。」
ソビエト連邦内部の派閥闘争の側面も
--ではソビエト連邦側にとって路線変更はどういった理由からなのでしょうか。
「イスラエルとの対立はソビエト連邦内部の保守派グループが主導しました。彼らは党の附属機関であった反シオニズム委員会を復活させるとともに、これに西側知識人やアラブ人も巻き込んで国際的な反イスラエルキャンペーンを試みています。共産党のイデオロギー担当書記であるG・ジュガーノフ氏はイヴァノフ書記長に反シオニズム運動への支援を迫り、イスラエルの態度硬化も相まって、対立路線は決定的になりました。しかし、その後にイスラエルが見せた譲歩はイヴァノフ書記長にとっては良い知らせとなり、保守派に対抗する最大の材料となったのです。」
長期的な影響は
--今後の国際情勢はどのように推移していくのでしょうか
「まず、米国とイスラエルの関係ですが、この二国が最大の同盟国であることにはいささかの変化もありませんし、長期的にはドラスティックな変化は起こらないでしょう。また、ソビエト連邦とイスラエルのこれ以上の深化は考えにくいです。
問題はむしろ東側にあり、イランとのソビエト連邦の関係が悪化する危険性があります。イランはまだ声明を発表していないですが、万が一関係が拗れてしまった場合、これを仲介するのは清華の役目となるでしょう。」(聞き手:佐藤恵)
隈本敦行 1968年生まれ。米オックスフォード大学で博士号を取得し現在は法国大学教授。近著に『ソビエト外交20年史』(法国大学出版)。
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